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抜粋
室蘭で「リレーフォーライフ」(命のリレー)に参加した時、一人のがん患者の方が走ってきて、「今年からアグネスもサバイバーですね」と言って、紫色のスカーフを首に巻いてくれました。トラックを見渡してみると、スカーフを巻いた仲間がいっぱい。「自分はひとりではない」と実感して、なんだか、とても安心しました。室蘭の空には、澄み切った青空が広がっていきました。
私は自分の病気について、本を書く気はありませんでした。「乳がん」といっても早期発見だったので、みんなと比べれば苦労も少なく、病気を語る資格はないと思っていたのです。でも、ある日、こんなメールをいただきました。
「母はアグネスさんが乳がんになったことをテレビで知り、検査に行って、早期発見ができました。ありがとう」さらに、地方にコンサートに行ったときも、「アグネスがお風呂で胸を触ってくださいと言ったので、触ってみたら、腫瘍が見つかり、手術を受けました。おかげで、命が救われました。」と楽屋まで会いに来てくれた方がいました。
そんな言葉をあちこちで聞くようになり、自分がカミングアウトして本当に良かったと思いました。そして、少しでもお役に立てるのならば、本を書いてみようと思ったのです。
この本を書くにあたって、私は自分の人生を振り返り、今の自分を見つめ直しました。短いようで、長い人生。本当に多くの方に支えられてきたことを思うと、ひとつ、ひとつ乗り越えてきた壁でさえ愛おしく感じます。そして人生は次の瞬間に何が起こるかわからない。だからこそ、精いっぱいに生きる。惜しむように、今を生きたいと思います。
今、私には、自分より大事なものがたくさんあります。世界の子どもたち、自分の息子たち。そして地球の環境、世界の平和。それらを少しでも良くしていきたいという思いを、自分の存在をはるかに超えた、大きな力が支えてくれているように感じます。私の命はみんなの命なのだと感じます。それが私の活動の原動力になっています。
一〇月一日は、私にとって、記念すべき日になりました。この日に私は偶然にも乳がんの手術を受け、ピンクに染まった東京タワーに見守られて、命が助かったのです。その光は、今度は誰を照らすのでしょう。
私は今年九月、ご縁があって、(財)日本対がん協会の、「ほほえみ大使」に任命されました。
ほほえみを通して、ひとりでもがんになる人が減るように早期発見を訴えたい。ほほえみを通して、がんの患者さんたちが明るく希望を持って生きられる世の中になるよう訴えていきたい。それが新たな私の使命になったように感じます。
涙のない人生はありません。でもほほえむ回数を増やすことはできます。だからみんなと一緒に、ほほえみを忘れない毎日を過ごしたいと思います。
この本は、二度助けられた命をかけて、心を込めて書きました。私の経験が少しでもみなさんのお役に立つことができれば幸いです。
二〇〇八年一〇月一日
アグネス・チャン
著者について
アグネス・チャン(AGNES CHAN)
1955年、イギリス領香港に生まれる。
72年、「ひなげしの花:で日本デビューし、
一躍アグネスブームを起こす。
上智大学国際学部を経て、
カナダトロント大学(社会児童心理学科)を卒業。
84年、国際青年年記念平和論文で特別賞を受賞。
85年、北京チャリティコンサートの後、
食料不足で緊急事態にあったエチオピアを取材。
その後、芸能活動のみでなく、ボランティア活動、
文化活動にも積極的に参加する。
89年、米国スタンフォード大学教育学部博士課程に留学。
教育博士号(Ph.D.)取得。
現在は歌手活動ばかりでなく、エッセイスト、目白大学教授(客員)、日本ユニセフ協会大使として、
芸能活動以外でも幅広く活躍中。
2008年、(財)日本対がん協会初代「ほほえみ大使」に就任。 |
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