掲載紙:週間女性
日付または号数:1986年2月4日号
主題:涙の披露宴完全収録
副題:「夫婦ゲンカは日本語でネ」
本文: 350人の招待客を招いての披露パーティーで、時価2億円の色打ち掛けに文金高島田のアグネスは、すっかり日本の花嫁さんになりきってうれし泣き――
 1月15日は成人の日、しかも大安というおめでたい日だった。成人式の晴れ着を身にまとった女性が、日比谷の帝国ホテルのロビーにもあふれている。
 午後5時30分『光の間』の入り口にアグネスと金子さんが並んでいる。
 マネジャーと歌手、香港と日本という国籍の違いという障害を乗り越えて結ばれた2人だけに、その喜びは大きい。まさに2人でつかんだ晴れのステージだ。
 白無垢に文金高島田、絵に描いたような”日本の花嫁”姿のアグネス。その色打ち掛けの見事さに、招待客のだれもが驚きの声をあげる。
 それもそのはず。昨年、法隆寺の宝物殿で発見されて話題を呼んだ1300年前の色鮮やかな箱の模様、蜀江錦を写した唐織りの正絹だ。同じ物を製作しようとすると億円はくだらないといわれる、超豪華な打掛だ。
 しかしアグネスは、
「みんながきれいだといってくれるけど、重くて大変」
 と、笑う。
 隣の金子さんの、
「美しいです。惚れなおしました」
 の、絶賛オノロケに耳たぶまで朱に染めてうれしそう。
「日本の花嫁衣装を着たかったので満足です。念願の日本の奥さんになれました」
 と、オノロケ返し。周囲は入り口からあてられっぱなし。
 取材陣のやっかみインタビューにも二人三脚のオノロケ回答が連発する。
――夫婦ゲンカは、日本語ですか? 広東語ですか?
アグネス「夫婦ゲンカは日本語で・・・」
金子さん「ノートを1冊用意して、広東語を勉強中ですが、ケンカになったらすぐぼくがあやまります」
――彼が浮気をしたら?
アグネス「浮気はしないと思いますが、もししたら本当のことをいってほしい。本当にしたときは世界中の親戚に相談します」
金子さん(怖めず臆せずキッパリと)「絶対しません」
 アグネスのこの笑顔も長くは続かなかった。自称、父親のハナ肇や親父気どりの小林亜星さんの姿を見ると、涙がポロポロこぼれ落ちた。
 ハナ肇
「14年くらい前にアグネスはクレージーキャッツの前歌をうたっていたんだからね。もう父親の心境ですよ。
 絶対日本人とは結婚しないと思っていたんだ。でもあれほど中国に傾倒していた娘が選んだんだから、金子さんはしっかり者なんだね。男のロマンがあるんだろう」
 小林亜星さん
「子供っぽいと思っていた子が、いつの間にか大人になってたんだね。華やかな席は苦手なんだけど、アグネスのためとなれば別。金子さんは安心してご主人になってもらえる人。10人以上子供を生んで幸せな家庭を作ってほしい」
 2人とも掌中の珠をとられた父親そのもの。
 招待客は約350名。堅苦しくない自由なムードにという配慮から、式は立食。
 正面右手には高さ3メートルのウェディングケーキ。白鳥の親子が配されたほほえましいもの。
 左手には200個のシャンパングラスを11段に積み上げたシャンパンピラミッドが、ライトを浴びて輝いている。

「食べてくれる人がいれば料理も上手に」和田アキ子

 料理は国際結婚にふさわしく、和洋中が用意された。和食代表は江戸前ずし。洋食は伊勢エビやサーモン、冷肉などのオードブル中心。中華はフカヒレスープ、春巻きやシュウマイなどの点心だ。
 司会役の土居まさるの軽快なおしゃべりと進行に、出席者の口もゆるみがち。
 愛川欽也
「3年前からアグネスの仕事ぶりが光って見えたんだ。その背後に金子さんがいたんだね。うまくいきそうな予感はあったの。去年アグネスに結婚っていいものなの、と聞かれてね。慌てず我慢することが大切。生活なんだからと助言しておいたんだ。そのころにはアグネスがよい仕事をすると、マネジャーを越えた喜びを金子さんは見せていたからね」
 関口宏
「1年半前にアグネスと仕事でギリシアに行ったときは、まだ料理は中国料理、男も中国が一番といっていたんだけどね。もちろんそのとき金子さんがマネジャーとして同行してたよ。その後ギリシアへ2人で旅行しているんだよ。もうバラしてもいいよね。少女のときから外国である日本に来て、仕事をやりとげている子だから安心。2人で力を合わせて立派な家庭を作りますよ」
 6時30分、最初のお色直しは金糸、銀糸をふんだんに使ったチャイナウェディングドレス。その華やかさに場内から歓声があがる。
 黒に金のフチどりがゴージャスなドレス姿の和田アキ子は自分のことのように喜び、涙さえ浮かべている。
「相談されてたし、去年仕事やり方が変わってきたのでピンときたの。これからは無理せずに、他人にほめられるのを期待せず、ダンナにほめられることに心を傾けることね。料理の腕もイマイチだけど、食べてくれる人がいれば上達するし、いざとなったら私がコーチしてあげる」
 クリスチャン・ディオールのドレスの楠田枝里子さんは
「可愛くて初々しいわね。心の優しい知的な女性だから、私が男だったらお嫁さんにしたいと思ったくらい、素敵な人なの。今日は特別に作った花束をプレゼントしたくて、仕事をぬけ出して駆けつけたんです」
 声をそろえて、ひなげしのような花嫁をたたえる。
 2度目のお色直しは純白のウェディングドレス。清楚なイメージをというアグネスの希望から、ソフトなサテン地にパールがほどこされている。
 8時30分。多くの人のハッピーコールにほおを上気させたアグネスと金子さんが、金屏風を背にお客さんの見送りに立つ。
 ウェディングドレスに輝くパールよりも美しい涙が、アグネスの瞳からあふれ出てとまらない。
 金子力・美齢夫妻としての初の大役は終わった。350人の招待客と多くのファンの声援を受け、シンガーソング・ワイフの生活が始まった。
 新婚旅行は4泊6日でハワイへ。新居は2月に完成だ。