掲載紙:女性セブン
日付または号数:1985年11月7日号
主題:アグネス・チャン 母を説得した家族会議一部始終
副題:なし
本文:  結納は12月17日、焼いた豚100匹、ケーキ300個。そして、12月25日午前2時新しいくしで髪をとかし、それから9時間30分後に、指輪を交換する――
 10月21日、夜、原宿にあるワインバー”モンクベリーズ”――
 集まった人たちのほとんどが、アグネスのレギュラー番組のスタッフやレコードの制作関係者、そして、出版を通じて親しくなった編集者たちだった。
『アグネスに一言かける会』
 これが、この夜アグネスを囲んで催された会の名前。だが、本当の目的はアグネスの誕生パーティーと婚約発表の会だった。
 会場の中央に、バースデーケーキ。30本の細いローソクが並んだケーキには、集まった人たちの気持ちを代表するかのように、次のような意味の言葉が、中国語で書かれていた。
《親愛なる陳美齢(アグネスの本名)お誕生日おめでとう。そしてもうひとつ、ご婚約も、心からおめでとうといわせてください》
 会場に遅れて到着したアグネスは、マイクを手に、こんなあいさつをした。
「途中、デモがあって、くるのが遅れました。ニューヨークや香港なら、どの車もすごくクラクション鳴らすはずだけど、日本の人たちは(デモが過ぎるのを)静かに待ってる。がまん強いんだなあって・・・でも、これからこの日本にずっと住むことになるんだし・・・(会場から、おめでとう!の声)私も、がまん強くやっていかなくちゃいけないな、と思いました」
 アグネスらしい”国際結婚”の弁がまずとびだす。
 となりでは、アグネスの母・陳彭端淑さん(58才)が笑顔をうかべる。

 しかし、婚約を公にできたこの日までの時間は、アグネスにとって、けっして、心安らかなときばかりではなかったようだ。
 アグネスが、母親や家族から結婚の承諾をもらうため、日本を発ったのは、10月13日。
 アグネスがいう。
「香港に着いて、お母さんには、すごく怒られました。私が、勝手に(結婚を)発表してしまったので・・・」
 だから親族一同の集まった家族会議の席でいきなり”国際結婚というのは大変なのだ。甘く考えているのではないか”という意見がみんなから出された。
「なんと答えたか、よく覚えてないけど、みんなには、とにかく一生懸命気持ちを説明しようと・・・もしOKが出なかったら待つつもりでした。そうしたら、落ち込んでいる私を見てお母さんが・・・」
 一日遅れの14日、夜。アグネスとは別便で香港に着き、ホテルで待機していた金子さんは、アグネス一家に夕食に招かれた。
 集まったのはアグネスの母親、ふたりの姉とその家族、そしてアグネスの弟・・・10人を少し超える数の人たちだった。これが第2次の家族会議。
 それまでの、緊張した”家族会議”の席とは違って、うちとけたムードの夕食会となった。
 そして、夕食会もなかばとなったころ、アグネスの母親が、大きな紙をとりだした。それは、ちょうど日本の和紙を巻いたようなもので、長さ60センチくらいにわたって、細かい墨の文字が、びっしりと書き込まれていた。
 これが、占い師が、アグネスと金子さんが幸せになるようにと占ってくれた”挙式までのスケジュール”だったのだ。
「ああ、OKしてくれたんだな」
 アグネスも、金子さんも、この時そう思った。そしてどんな言葉よりも、こうした準備をしていてくれた母親にたいして頭がさがる思いだったという。
 その占いによると――
 挙式は来年1月11日、香港で。
 しかし、ふたのにとっての本当の吉日は、今年の12月25日。だから、この日に、ふたりは結婚に先立つ”儀式”をする。
 まず、午前2時にアグネスが新しいくし(傍点)で髪をとかし、午前11時30分になったらアグネスと金子さんのふたりで天にむかっておがみ、指輪交換をする――これが”儀式”の内容。
 結納はその8日前の12月17日。
 日本の結納と違って、男性側から女性側へ納める品は、20を超える。
 そのほかに焼いた豚100匹、ケーキ300個・・・といった祝いの品が加えられる。これは、婚約の時点で、多くの人たちにこれらの品を配り、一緒に祝福してもらおうという考え方が、香港にはあるからだという。
「金子さんの誠実で礼儀正しいところを、お母さんが分かってくれました。ふたりで努力して、結婚してよかったと思われるような家庭をつくりたい」
 と、アグネスは満面に笑みをたたえて喜びを語っていた。

 会も終わりに近づいたころ、アグネスと金子さんのふたりが、気持ちもあらたに、こうあいさつした。
アグネス「親のかげに隠れてやっていくのは正直いって楽しいし、楽。でも、これからは、自分の基準をつくらなくてはと思っています。異国人と結婚して、異国の子供を生むわけですから、苦しみやつらさもあるんじゃないかと思います。結婚て甘いもんじゃないと思います。メゲちゃうかもしれないけど、応援してください」
金子さん「まだ不安もあります。こうしてお母さんがいらしてくれただけでもうれしい。これからはみなさんのお力なくしてはうまくいかないと思います。よろしくお願いします」
 アグネスの右腕には、金子さんから贈られた金のブレスレットが光っている。もちろん、婚約指輪も贈られている。幸せの祈りを込めてのダイヤモンドだったのはいうまでもない。